『ひよこのパジャマ』鑑賞

「うわの空・藤志郎一座」の『ひよこのパジャマ』を、池袋シアターグリーンで観てきました。同劇団スーパーバイザーの唐沢俊一さん、客演の川瀬有希子さんと、知人が2人も出演しているので、この齢にして初めてちゃんとしたお芝居を観に行ったのでありました。
舞台は東京は下町・谷中のギャラリー。2週間前に亡くなったそこの主人を偲んでギャラリーを訪れる近所の人たちやかつての教え子、愛人の子らと、ギャラリーの主人の子供達・妻とのやり取りを描くという内容。主人が生涯に唯一描き遺したという、愛する妻を描いた絵画。たった一枚のはずの絵なのに、地下室から出てきたのは…? 偶然にも主人公一家の苗字が私の本名と同じだったので、驚くとともに感情移入して観てしまった。
いやぁ、スゴかったです。感動しました。何がスゴいってギャグが。もう最初っから最後まで笑いっぱなし。よくもこれだけ貪欲にギャグをバシバシ詰め込めるものだなぁ、と*1
ここで「うわの空」のHPから、劇団紹介のくだりを引用。

上演作品はすべて劇団のオリジナルで、座長・村木藤志郎の作によるものです。
"うわの空"のお芝居に、台本はありません。与えられた場所、限られた設定の中で、役者が自由に動き回り、それを、座長・村木がまとめ、肉付けして、ひとつの作品を作っていきます。大事にしているのは、「そこに、その人間として存在すること」。誰かと誰かが同時に喋り出しても、おかまいなし。楽しかったら皆で笑おう、悲しかったら、ひとりでも構わず泣いてしまえ。感情が動くまま、そこに在り続ければよい。だって、人は普段、そうやって生活しているのだから・・・。
結果、リアルで、ナチュラルで、ハイテンポな会話が生まれ、オリジナルの「活きた」空間が出来上がりました。
"うわの空"のお芝居は、とにかく「笑い」が多く、劇中はギャグの応酬。
「笑い」は "うわの空"の不可欠要素のひとつで、絶対的にこだわっています。誰もが楽しめる舞台を・・・"お客様に楽しんでもらう事"を常に意識しています。こんなに笑える演劇は、他にはきっとありません。
"うわの空"がもう一点こだわっているのは、「涙」。
たくさん笑って、最後は感動。これが"うわの空・藤志郎一座"の舞台!! でも、わんわん泣かせるのは野暮。ほろっと涙がこぼれるくらいの「切ない物語」が、"うわの空"流です。

『ひよパジャ』しか私は観ていないけれど、少なくともそれに関してはこの通り、全く看板に偽りなしでした。前述した通り、ギャグはてんこ盛り。そして、作中には名前しか出てこないギャラリーの主人の人柄がエピソードで偲ばれ、残された人々が彼に寄せる思慕が舞台上をやさしく包み、最後はさわやかなノスタルジアの中、大団円です。ラク日だったので、終演後に三本締めが行われたのですが、それが終わって舞台から引き上げる出演者の方が心底カッコよく見えました。私はクイズをやっていなかったら、大学では演劇をやりたいと思っていたのですが「自分がいま、あと10歳若かったらな」とふと思ってしまったことを告白しておきます。
最後に、印象に残った出演者の方を。
あすか(高橋奈緒美さん)…ギャラリー主人の先妻の娘、という役。すごくおっとりした喋り方なのに、突如「髪ムチ」(後ろで束ねた長い髪の毛をムチのように振るって相手を攻撃。地味に痛いらしい)を繰り出すというギャップがおかしかった。
ちぐさ(小栗由加さん)…ギャラリーの看板娘(?)。下町のガラッパチな女の子を、声を枯らして熱演。弟の慶喜にパンチを食らわしたり、シンジに頭突きをもらったりと体を張って大暴れ。笑顔が素敵な「うわの空」の看板女優さん。
みさお(川瀬有希子さん)…ちぐさ・慶喜の母親で、ギャラリー主人の未亡人、という老け役に挑戦。川瀬さんは声に独特の力があってそれが印象的なのだが、今回もその魅力を発揮して、オチの台詞を放っていた。
西山(金沢柱さん)・・・「江戸風鈴職人の関西人」の役。私のような巨漢っぷりで唐突に「行かさへーん!」と通せんぼするのがおかしい。関西人は「マック」とは言わない、ということで「ビッグマクド」と言い張る。
円法(水科孝之さん)・・・漫画家のみずしな孝之さんもこの劇団のメンバー。坊主頭に私物の作務衣で、近所のお坊さんを好演。物販で売られていた著書にサインをいただき、ため書きで私の名前をいったとき「お、この芝居と同じだね」と言われて嬉しかった。
小森シンジ(村木藤志郎さん)…座長は近所の畳職人役。このシンジがとにかくにぎやかしでガッチャガチャにかき回すので爆笑の渦。あすかに思いを寄せているので、ちぐさや慶喜から彼女に関する耳寄りな情報を聞くたびにさりげなく千円札を握らせるのが面白かった。
エリカ(島優子さん)…ギャラリー主人の愛人の子。だからちぐさたちに名前を聞かれても「いや、名乗るほどのものでは…」と挙動不審っぷりを発揮。すごく美人な女優さんなのに、シンジと猪木のマネをするシーンの迫力がバツグンだった。
大林ヒデヤ(小林三十朗さん)…近所の刑事さん。なぜかやたらと「チンチンがちっちゃい」「寒がって服を着てる」と強調される気の毒な役回り。「バカヤロー、いざとなったら服は脱ぐんだよ」の台詞に舞台上の女優さんが思わず吹いていたのにはこちらも笑わされた。
矢部先生(唐沢俊一さん)…元美術教師で、現在は有名な画家という役。「シャガール」というあだ名の由来が面白かった*2。どんな話題についても「○○といえば実はね…」と雑学を述べてみんなにケムたがられるキャラ*3。あちこちで色々な方が指摘しているが、実に素敵な声をお持ちである。10月からTBSラジオでレギュラー番組を持たれるようなので、今から楽しみだ。
「うわの空」は来年の5月頃に本公演、来月末・再来月末にお笑いライブをやるそうだが、どっちも行こうと思ってます。興味のある方、いかがですか?



「命名者は高田文夫/…」。人気blogランキング

*1:印象に残ったギャグを紹介したいんだけど、ライブ感のないテクストで紹介しても無意味なだけなので割愛。ただ、『ドラゴンボール』『ジョジョ』など『ジャンプ』系のネタ(それもひと昔以前くらいの)が結構あったので、私と同世代の人などはツボかもしれない。もちろんギャグはマンガネタだけではないけれど。

*2:教師時代、学芸会か何かで芸者のモノマネをやったが全くウケず、「芸のないゲイシャガール」で「シャガール」だとか。

*3:「こいつ、授業中にも聞いてもねぇ雑学を話すから『世界一受けたくない授業』って言われてたんだよ」というシンジの台詞が笑えた。