天国へのアンコール

渋谷パルコ・ロゴスギャラリー中島らも追悼展 『彼の世でアンコール』」を観てきた。入り口では、顔を出して中島らもとツーショットで写真が撮れるパネルが出迎えてくれた。
彼の直筆生原稿や、愛用していた筆記具、ポートレートなどが展示されていた。彼の手書きの文字で埋められた、やや茶色がかかった原稿用紙には、私が10代の頃に読みふけった『僕に踏まれた町と僕が踏まれた町』*1のタイトル案がいくつか挙げられていた。『ひょうご・ぐらふぃてぃ』『思い出は各駅停車』などの候補の中から、あの作品はあのタイトルになったのだ、と思うと感慨深かった。やはりあの作品は『僕が…』でなくてはならない。タイトル自体が一つの詩のような美しさを持っているのは、彼がコピーライター出身だからだろう*2
彼の死を知った昨年7月の終わり。私はその報せを聞いた途端、残業を切り上げて退社し、途中で酒をしこたま買って家で一人、浴びるように飲みながら、彼の著作を読んでその死を悼んだ。生前の彼を一度だけ、見たことがある*3大麻事件の判決が出た直後だった。それから1年も経たないうちに彼は亡くなり、そして、それから8ヶ月が経ち、彼はギャラリーの壁に飾られた写真パネルの中に、気だるい表情でギターを持ち、佇んでいた。もう、彼はこの世にはいないし、もう新しく作品を生み出すこともできない。8ヶ月経って、ようやくそのことが実感できた。
壁には、彼ゆかりの人が書いた、追悼の寄せ書きもあった。昨年映画化され、彼も出演していたため文字通りの「遺作」となった『おとうさんのバックドロップ』に主演した、宇梶剛士の言葉がとても印象的だった。「動き遅いぞ 逝くの早いぞ 淋しいぞ」。
会場におかれていたノートに、メッセージを残した。届くかどうかはわからない。ごまんといるファンの中の一人の戯言であるからだ。でも、それが届くことと、それが叶うことを信じて私はメッセージを書いた。
「もし僕が天国に行ったとき、よかったら一緒にフォアローゼスを飲んでください」。
だから、せいぜい死んだときに、天国に行けるような生き方をしておこうと思う。

*1:掛け値なしの名著。もし私が「10代のうちに読むべき本」を問われることがあるとしたら、真っ先にこれを挙げる。

*2:『空からぎろちん』『獏の食べのこし』『頭の中がカユいんだ』など、素敵なタイトルの作品が多い。彼は帯のコピーまで自分で考えていたという。

*3:abarehaccyakuさんと行った、2003年9月のロフトプラスワントークライブ。それからしばらくして、私もロフトでトークライブをすることになり、彼と同じ舞台に立てたことに感激したものだった。