メタファー劇場

私、茶太が女だったとしましょう。
年の頃なら熟れに熟れた30代半ば。女ざかりと呼んでも過言でない年嵩の、ちょいと色っぽい古風な美人だということにしておいてください。
さて、お茶太には愛する夫の吉蔵がおります。若い頃から愛し愛され、一緒になった恋女房です。結婚以来貧しいときも辛いときも、夫婦二人は相和して、歯を食いしばって耐えてまいりました。ときに嬉しいことに手を取り合って喜び合ったこともあった、そんな大切な夫がお茶太にはおるのです。
ところがこの吉蔵、大変不幸なことに商売の大事な大事な取引先が倒産、それによって自らの事業も傾きました。商売は立ち行かなくなり、お茶太の愛する吉蔵は窮地に立たされます。
「おまいさん、どうぞあたしをどこにでも売り飛ばして」
「馬鹿を言うなお茶太。どうして女房のお前を売り飛ばせよう」。吉蔵はお茶太の目をしかと見つめてこう言います。
「俺は借金を返すために、遠いところに出稼ぎに行く。いつ帰ってこられるかはわからない。しかし、働いて金をため、必ず、必ずお前の元に戻って来る。お前には苦労をかけて相済まないが、どうか俺を信じて待っていてくれ」
「ずっとずっと待っています。あんたが借金を返して、あたしの元に戻ってくるその日まで。あんたに操を立てて、死ぬまで待っています。だからどうぞ、無事に帰ってきて」。そうやってひしと抱き合う二人。そして吉蔵はお茶太の前から姿を消したのでありました。
それから一年半の月日が流れました。お茶太は吉蔵の帰りを今か今かと待ち詫びていますが、なかなか夫の帰る気配はありません。女ざかりのお茶太が一人でいるという噂は広まり、いろいろな男が言い寄ってきました。吉蔵には五人ばかりの弟がいましたが、この弟達が執拗にお茶太を狙います。特に吉蔵のいちばん下の弟・数寄兵衛は、下卑た男でお茶太はことのほか嫌っていました。しかし数寄兵衛は抜け目のない男で、吉蔵が失敗した事業も、少々がめついやり方でうまく軌道に乗せているのでした。しかし、その数寄兵衛のやり口は生真面目な吉蔵がよしとしなかったもの。ますますお茶太は数寄兵衛を疎ましく思うのでした。
しかし、夫のいない身は金銭的にも辛いもの。そして、やはり女ざかりのお茶太、体が寂しく疼く夜もございました。そんなある日、貧しさに耐えるお茶太のもとに数寄兵衛がやってきたのでした。
「お茶太さん、兄貴はもう帰ってきやしないよ。そんないい女ぶりが、貧しさと一人寝をかこつのは勿体ない話だ。帰るかどうかもわからない兄貴を待つくらいなら、私と一緒にならないか? お茶太さんに苦労はさせないよ」
「馬鹿をお言いでないよ。必ずあの人は帰ってくるんだ。あんたみたいな阿漕でがめつい真似して儲けてたって、本当のところはすぐにわかるんだ。あの人だったらそんな真似はせずに、まっとうに商いをしたはずだよ」
「それだから兄貴は首が回らなくなってトンズラしたんだ。可愛そうに、こんないい女のお茶太さんを悲しませるなんて」。そういうと数寄兵衛はお茶太を押し倒し、抱きすくめました。
「な、何をするの…。放して、放してったら」。しかし数寄兵衛は弱々しいお茶太の抵抗をあざ笑うかのように手をかけてきます。
「ふふふ、お茶太さん。強がるのはお止し。口は嫌がっていてもほら、体はそうは言っていないぜ」
「いや、やめて。放して…」。しかし哀れ、数寄兵衛の毒牙にかかったお茶太は、悲しさと悔しさを感じつつも、久方ぶりに抱かれる男の腕の中で、「肉」欲に身を任せ快楽に溺れていってしまうのでした…。


吉野家の牛丼をずいぶん長いこと食ってなくて、久々にすき家の牛丼を食ったら不覚にも美味しいと感じてしまった昨日の私をモチーフにしたフィクションだったのだ。完(←何が「完」じゃ)。



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