映画『ピーナッツ』鑑賞

内村光良初監督作品ということで話題になっているこの映画。『内P』ファンとしては、観ないという選択肢はありえないので、先日観に行ってきた。
http://www.peanuts-movie.jp/
評価は★★★★☆。まぁメインキャストの大半が演技は素人という点と、ちょっとクライマックスの決着のつけ方が私には若干物足らない点があったのでひとつ減点。しかし、素直に楽しい映画だった。はっきりいって、『内P』メンバーの稚拙な映画ごっこ、と言おうと思えば言えなくもない。でも、私はきっちり楽しんで、そして泣かされてしまった。
映画のキャストで、よく小津組とか黒澤組などという言い方をするが、観ていて感じたのは「内村光良は、5年半かけて『内P』という番組の中で、『内村組』を作っていったんだな」ということだった。さらにいえば、『内P』は超ロングスパンの、『ピーナッツ』という映画のオーディションだったのかもしれない。その点は、映画を観る上で先入観として邪魔になるともいえるし、逆にスムースな世界観への導入だともいえるのだが。「内村組」大番頭の三村マサカズはやはり本作でも準主役、曲者の大竹一樹はやはり得体の知れない役(ホントにメチャクチャ)、ゴルゴ松本はアツい男気のある役どころで、レッド吉田はがんと闘病する妻を支える保父を好演(これはかなりよかった)、そしてもちろんふかわりょうは情けないいじられ役。『内P』と『ピーナッツ』はもちろん切り離して考えなくてはいけないのだけれど、予めある程度の形として出来上がっている、観ている者にとって(『内P』視聴者以外にとっても)もっとも心地よい世界観で映画を提示したというのは、やはり内村光良の「勝ち」だと思う。そして、ベンガル桜井幸子奥貫薫らが脇を固め、竹中直人有田哲平原田泰造中島知子など豪華なカメオ陣も華を添えている*1
10年前は甲州大会優勝を経験した名門ながら、現在は部員も揃わずかつての栄光は見る影もない草野球チーム「ピーナッツ」。そのかげりが、メンバーが現在抱える仕事や人生での様々な問題、そして再開発の対象地区となっているうらぶれた地元商店街の現状と重なり合いながら、物語の下地となっていく。特にレッド演じる赤岩*2は、かつてのマネージャー・アカネ(奥貫薫)と結婚したが、彼女はがんと闘病中という重い事情を抱えている。
そんな彼らが、再開発の中止を賭けた試合という大一番に臨むことによって、かつての勇気や希望を取り戻そうとしていく物語が織り成される。この説得力に心を動かされてしまった。相良(三村マサカズ)が試合の直前に、娘から「頑張って」と励まされながら渡される手作りのリストバンド。アカネの手術の日程が試合と重なったため、出場することを最後まで躊躇する赤岩にアカネがかける言葉(とても素敵な台詞なのでここでは書かない。劇場でご覧いただきたい)。そんなシーンの数々にツボをつきまくられてしまった。そしてクライマックスの、再開発を賭けた試合の行方。
微妙に年を取ってきて、人から「まだ若いんだから」と言われても素直に肯定できないような年になってくると、こういったストーリーが余計に心に届いてきてしまう。夢と希望をがむしゃらに追いかける青春群像では描けないもの、40歳のおじさんが無理して、かっこ悪く、でも一生懸命に奮闘する姿でしか伝えられないものがある。この映画にはそんな「俺たち、まだまだやれる」感が横溢していた。40歳になろうが50歳になろうが、夢を見たって構わないし、諦める必要なんてない、というメッセージがあった。それは、映画のストーリーだけに込められていたわけではない。23年前、映画監督を夢見て熊本から上京しながらも、映画界ではなくお笑い界のスターダムにのし上がってしまった青年がいた。そして、第一線のトップをひた走って天下を取り、お笑い界の大御所となりながらもその夢を忘れずに持ち続けていた男がいた。「俺たち、まだまだやれる」、「いくつになっても夢を見たって構わないし、諦める必要なんてない」というメッセージは『ピーナッツ』という映画だけではなく、エンドロールの「監督 内村光良というクレジットの中にも、しずかに、だがしっかりと込められていたのである。



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*1:ふかわりょうの実の両親が、ふかわ演じる宮本の両親役で出演しているのには笑った。

*2:「ピーナッツ」メンバーの役名は、すべて俳優の芸名・実名から一文字取ったものになっている。内村光良→秋吉光一、大竹一樹→文野正樹といった具合。レッド吉田は赤岩登。