ヒライさんのこと
私の会社の同期で、ヒライさん（仮名）という女性がいた。一部から「陰気だ」とまで言われてしまうほど大人しい人で、女性なのに他の女性社員などとつるんだりすることもなく、食堂で一人で昼食を取っていたり昼休みに社内でぼーっとしていたりするところをしばしば見かけたものだった。しかしその反面、ちょっと天然で何を考えているのかよくわからなかったり、毒のある辛口なことを何気なくあっさりと言ってしまったり、真面目そうに見えてけっこういい加減なところもあったりする人だった。
私よりも先に会社を辞めてしまったのだが、そんな彼女となぜか私は仲がよく、何度か２人で飲みに行ったり、昼食を取ったりしていた（そのため、社内の一部に「一斗とヒライは付き合っているのではないか」という噂が流れたこともあった（もちろんそんな事実はない）*1。
そんな彼女から、ある日聞いた話。世代的にバンドブーム直撃の70年代後半生まれの我々だが、彼女は小・中学生の頃、ユニコーンが殊のほか好きだったという（そういえばカラオケでよく歌っていたのもPuffyだった）。
「でね、中学生のとき、冬休みに書初めの宿題が出て、先生が『何でもいいから漢字二文字の言葉を書いて提出しろ』って言ったの。でも、特に書きたい言葉なんてなかったんだよね。だから私、『民生』って書いたのね」
すると、それを見た先生曰く、「ヒライさん、『みんせい』って何？」
「危うく思想を疑われちゃうところだったよ」*2と彼女は、いつものぬぼーっとした調子で話し、いつもの目だけ笑わない笑顔を私に見せたのだった。TVに奥田民生が出てくると、いつもこの話と彼女のことを思い出す。
今頃、どこで何をしているのかな。別にどうだっていいけど。
