メリーさんみたいなもんか

最初見たときは、私の見間違いか、幻覚なのではないかと思っていた。
二度目に見たときは、確かにその光景を現実だと認識せざるを得なかったが、それを認めるのには大きな抵抗があった。
そして三度目に見たのは、つい先日のことだった。
って勿体つけるほどのことでもないんだけど、渋谷の駅前界隈でときどき見かける、だいぶ風変わりな方がいる、というお話。
その方はどんな方か。年齢はまず間違いなく、40代はくだらない。本当はもっと上かも知れないが、彼の顔をまじまじ、はっきりと見たわけではないし、もちろん「すいません、おいくつですか?」と訊いたわけでもないのでわからない。だが、あの感じは間違いなく40代以上だ。後述する事情のため、その人の頭部全体を見ることは叶わないのだが、おそらく髪の毛は生えていない。剃っているのか、禿げているのかは判然としないが、彼にはきっと髪は生えていない。
顔はどうか。おそらく私がいま、彼の顔を皆さんに伝えるのにいちばん要を得て簡潔なのは東条英機にソックリ」という一言だと思う。痩せていて、メガネをかけていて、口ひげを(確か)生やしている(生やしていなかったかもしれないけど)。そして先に述べたように、(おそらく)つるっ禿なのだ。これはもう、A級戦犯としておなじみのあの彼を思わせる。
どんな格好をしているか。これがフシギなことに、いつ見てもサッカーの日本代表ユニフォーム(しかも2002年のやつ)のレプリカなのだ。上下とも。ちなみに私が初めて彼を見たのは10月の終わり、最近見かけたのは12月の初旬である。そんな寒空の中でも、彼はトルシエジャパンの一員なのである。
そして、なぜか彼はいつも、真っ白いヘルメットをかぶっている(これが先に少し触れた、彼の頭部全体が見られない理由である)。さぁ、想像せられよ。いい年した、東条英機に似たおっさんが、12月の空の下、日本代表のユニフォームと白ヘルで渋谷を練り歩く姿を。これはインパクトあるぞ。最初に見たときは、何かのロケかと思ったのだがカメラクルーは見当たらない。二度目、三度目に見たとき、最初と寸分違わぬ格好をしているのを見て、初めて私は「ああ、『そういう』人なのか」と納得した次第だ。
彼を見かけるのは夕刻、たいてい18時過ぎのハチ公前広場である。流行の先端を行く街に夜の帳がおり、多くの人でごった返し始める時間だ。にも関わらず、彼はそんな人々を意に介しないで、渋谷をたった一人で練り歩く。何か明確な意思を持っているかのように、あるいはそんなものなどまるで持ち合わせていないかのように、人々の間を縫うようにして、自分の歩きたいように彼は歩く。彼に奇異の目を向ける人、あからさまに彼を避ける人、あるいは写メを撮ろうと携帯電話を向ける人などが彼を取り巻くが、それでも彼は、まるで渋谷全体が自分の立つピッチであるかのように威風堂々と、自然に振る舞っている。
次に彼に出会えるのはいつだろうか。まぁ出会ったところで生温かく見守る以上のことはしないしする気もないけれど。
ここをご覧の、渋谷を行動の拠点にしている皆様。彼を見かけたことはありますか? 何かご存知ですか? 情報はありますか? もし何かありましたら教えていただけるとありがたい次第。
意外と渋谷の女子高生とかギャルあたりの間で、彼のことを話題にしたら不幸がふりかかる、みたいな都市伝説が既にあったりしてな。 




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