漱石とイルマさん(1)

実は、あの国民的ドラマ『あまちゃん』をほぼ全く観たことがない私なのだが、先日、なにげなくTVをザッピングしていたら総集編をやっていた。5分ばかり、どういう内容かもわからずにぼーっと観ていてチャンネルを変えようとしたとき、ふと目がとまった。
出演者の一人が、どこかで見たことがある人のような気がしたのだ。調べてみたら、GMT6(というアイドルグループが作中に登場するんでしょ?)の入間しおりを演じていた、松岡茉優という女優さんだった。
もちろん、私が松岡茉優と面識があるというわけではない。ただ、彼女とよく似た古い知人がいたことを思い出したのだ。もう十数年会っていないし、いまどこで何をしているかもわからない。これから会うことも、おそらく ―いや、間違いなく― ない。
正直、私が偶然『あまちゃん』を見なければ思い出すことさえなかった、そんな人だ。姓も、思い出すのにしばらく時間がかかった。名前はとうとう思い出せなかった。いや、そもそも私が彼女の名前を知っていたのかどうか、自信がない。
だから、私はその女性を、イルマさんとここでは呼ぶことにする。
イルマさんは、私の大学の先輩だった。といっても同じ学科でも学部でもない。彼女は確か法学部の学生だった。
サークルも違っていた。確かジャズ研究会に所属していて、記憶に間違いがなければアルトサックスを吹いていた。いや、ソプラノサックスだったかもしれない。
私はイルマさんと、一般教養の生命科学の授業で知り合った。たまたま、大教室の席が隣だったか後ろだったかで、授業で配られたプリントをまわすときに、ひと言ふた言話したのがたぶん、知り合ったきっかけだったと思う。私はそのとき2年生で、イルマさんは3年生だった。
「ジャズ研は、留年するやつの率がおそろしく高い」
私と同じクラスのジャズ研の友達が、そう言っていた。私がいたクイズ研だって、そんじょそこらのサークルに負けないくらい留年率は高かったのだが、ジャズ研も代々、ちょっとしたものだったらしい。
そしてイルマさんも、そんな ―進級が危ない― 学生の一人だった。



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