君は絵のように美しい

 中学生のときの同級生に、瓜実顔といおうか、色白で面長で、痩せ型の女の子がいた。その女の子は私に、ある画家の描いた女性の姿を思わせた。アメデオ・モディリアニである。ただ、私が彼女に抱いた、モディリアニの絵であるようだという印象は、彼女の美しさや魅力に基づくものではなく、単に客観的事実に基づいた印象なのであった。ていうか単にその子が顔が長かった、というだけの話なのだが。
 当時の私は、思いついたことと食べたいものはその場で躊躇なく口にするという性格だったので(この性格は矯正の結果、食べたいものについては克服された)、彼女に「カツラダさん(仮名)ってモディリアニの描く絵に似ているよね」と伝えてみた。彼女はモディリアニがどんな画家なのか知らなかったようだったが、画家の描く絵に似ている、と言われて悪い気はしなかったのか、否定し照れつつも満更ではなかった(ように見えた)。
 それからしばらくして、彼女は美術の時間、教科書でモディリアニの絵画を初めて目の当たりにすることになる。自分に似ているといわれた画家の絵を、彼女がどんな気持ちで眺めたのかは私にはわからない。ただ、そのこととは直接無関係だと思うが、それから3ヶ月ほど、彼女は私と口を利いてくれなかった。
 いま、私の知り合いにガリガリに痩せて背の高い年配の男性がいる。「イナバさん(仮名)って、ジャコメッティの彫刻に似てますよね」と口にしたいという衝動を、抑えきる自信は私にはない。どうしたものでしょう。