くりぃむめろんぱん

私が子供の頃、東京に住んでいた当時、家の近くにパン屋さんがあった(今はもうない。数年前に閉店したようである)。先日も書いたように私はごはんっ子なのだが*1、その店のパンはよく我が家の食卓にのぼり、小さい頃の私はその店のパンで育ったようなものだった。物心ついた頃からパンといえばその店のものであり、私にとっては全てのパンの基本だったのだ。
その店はいわゆる「おそうざいパン」がメインで、縦に裂いたコッペパンに、カニ肉をマヨネーズであえたものをはさんだカニサラダパンとか、ハンバーガー用のバンズにレタスと、チーズを挟んだハムカツを入れたチーズハムカツパンなどが私は好きだったのだが、メロンパンも好物だった。その店のメロンパンは、緑色のかさぶた状のカリカリがあるごく普通のものなのだが、中にカスタードクリームが入っており、実に美味しかった。しかし、先ほども書いたように、私にとっては全てのパンの基本がその店のものであり、他の店のものを食べる機会もあまりなかったので、メロンパンとはデフォルトで中にクリームが入っているものだと思っていたのである。
やがて東京から神奈川に転居した後、母親がどこかの店でメロンパンを買ってきた。大口でかぶりついたものの、そのかぶりついた断面には、パンがみっちり詰まっているだけだった。そのときの私の心情よ。たとえば想像していただきたい。あなたが、湯気も出てほっかほかの肉まんにかぶりついたとき、中に何も具が入っていなかったときのことを。私は内心「不良品(というのかな、食品の場合も)だ!」と憤ったが、母親は平然と、中に何も入っていないそれを(「美味しいね」とさえ言いつつ)食べている。気の弱かった(今でも弱いが)私は、そのまま黙ってクリームなしのメロンパンをおとなしく食べた。
それから他の店のメロンパンをいくつか食べるに連れ、どうやらメロンパンは普通、クリームが入っていないものなのだ、ということを知ったときの寂しさはいわく言いがたい。以後、私はクリームの入ったメロンパンを口にせぬまま、あの店は店じまいしてしまった。もちろん、あの店のもの以外でもクリームの入ったメロンパンはある。でも、私の中ではやはりあの、首都高の下でひっそりとやっていた、小さな店のそれがベスト・オブ・クリーム入りメロンパンなのだ。そろそろ、味の記憶さえ薄れている。もう食べることができない、だからこそ食べたい味なのである。



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