スパゲティーの年に

私はスパゲティが好きである。基本的に父親譲りの「麺食い」なので(父親が「面食い」だったかどうかは、母親を見る限り違(略))、麺類はだいたい何でも好きなのだ。一人暮らしをしていたときは自炊でいろいろ作ったりするのが面倒だったので、もっぱらスパゲティを茹でてテキトーに食事を済ませていた。あまりにそればっかり食べるので、会社の連中には「お前に男の子が生まれてたら『パス太』と名付けろ」とからかわれたものだが、親父が「茶太」で息子が「パス太」なんてマヌケな親子はちょっとイヤである。
一口にスパゲティといっても非常に沢山の種類がある、なんてことを我々世代が知ったのは意外と最近のことではなかったか。考えてみれば私が子供の頃、スパゲティなんてナポリタンかミートソースぐらいしかなかったような気がする。「軽食も出しますよ」的な喫茶店のショーウインドウに飾られている、フォークが宙に浮かんだディスプレイ(懐かしい)のスパゲティは必ずナポリタンかミートソース(皿も、公園の池にあるボートの平べったいようなやつだった)であって、それ以外のスパゲティが日本に(いや、イタリアにも)あろうなんて夢にも思わなかった。せいぜい、最先端のナウいヤングが食べるものとしてのボンゴレ*1とか、変り種としてのたらこスパゲティがようやく出てきたかどうか、という時代だったと思う。
それがどうだ。今や幼稚園児だって「スパゲティ食べる?」とか訊いたら「アル・デンテ*2カルボナーラじゃなきゃヤダ」ぐらいは口走るし、ミートソースはボロネーゼなんて気取った名前にお変わりあそばされ、ナポリタンにいたってはなかなか店では姿を見なくなってしまった。あの、食べたあとに口の周りがエラいことになり、ケチャップの酸っぱさにむせっ返るナポリタンはいつの間にか遠くに行ってしまったのだ。ちょっと寂しいことである。
とかなんとか嘆いているが、私はいまスパゲティといったらペペロンチーノしか食べない。本当だ。ここ何年も、自分で選択の余地がある場合にはペペロンチーノしか食べていない。別に他のスパゲティが嫌いだとかコダワリがあるとかそういうことではなく、単にピリ辛の味やにんにくの風味が大好きなのと、あまりゴテゴテと味や食材がないほうが飽きが来なくて食べやすいからだ。素朴なものが好きなのである。庶民の皆さんにはあまり馴染みがないかもしれないが、私の行きつけの高級イタリアン「Saizeriya」ではほとんど行くたびにこれを注文するし、一人暮らしをしていたときもテキトーに作って食べていた。当分まだ飽きそうもない。まぁ「絶望のスパゲティ」だの「貧乏人のスパゲティ」だのの異名を取るペペロンチーノ*3なので、絶望的な貧乏人の私にはピッタリなのかもしれないが。
ところで私は食べたことがないのだが、イタリアには最も素朴で基本的なスパゲティとして「スパゲティ・アル・ブーロ」というものがある。「ブーロ」というのはバターのことで、文字通り、アル・デンテに茹でたスパゲティにたっぷりのバターを絡めて塩コショウをするだけ、という素朴の極みのようなものである。実際イタリアでは、蕎麦でいうところの「もりそば」のように「基本中の基本」的な、そしてパスタの味をズバリ味わうための食べ方として知られているらしい。これは美味しそうだ。素朴な食べ方好きとしては捨て置けない。しかし、これこそ店でわざわざ出すようなメニューではないので、外で食べることはナポリタンより難しい。かといって作るのはメンドくさいからヤだ(ってどれだけ不精やねん。茹でてバター絡めるだけだぞ)。だーれーかー、私のために作ってー、アールー・ブーロー♪ 食ーべーたーいー(はぁと)。



「スパゲ」と大胆に略す私の祖母。人気blogランキング

*1:何のことはなくてただのあさりなのだが、勿論当時はボンゴレという名の世にも珍しい食材が入っているのだろうと思っていた。

*2:茹で上がった麺を1本天井に放り投げ、それが貼り付くかどうかでアル・デンテかどうかを見分ける、となんかで読んだことがあるのだが本当だろうか。ところで私がこの言葉を初めて知ったのは、高2のとき新潟出身の某クイズ王の方からもらった問題集の中でだった。

*3:具として使われる食材が極端に少ないからこう呼ばれるのだそうだ。