映画『寝ずの番』鑑賞

(注.作品の鑑賞には支障のない程度のネタバレあり。作品の内容上、露骨な下ネタ表現あり)
マキノ雅彦津川雅彦)監督第一作、ということより中島らも原作の映画ということで観に行ってきましたよ。
http://nezunoban.cocolog-nifty.com/main/(※予告編で音が出ますのでご注意)
評価は★★☆☆☆。初監督作品ということでご祝儀。え、この評価でご祝儀? はい、残念ながら。
そもそも、『寝ずの番』ってあえて映画化するほどの作品だったのかなぁ。いや、原作びいきだからってわけじゃないですよ。先行して映画化された『永遠も半ばを過ぎて』*1や『おとうさんのバックドロップ』みたいなストーリーらしいストーリーってないし。何しろ『寝ずの番』って、中島らもファンならおなじみの「二度ネタ、三度ネタ」*2の宝庫みたいな作品で、全編これ小ネタの連続、みたいな内容なんだから。映画化するんならもっといじりようがあると思うんだけど、だいぶ原作に忠実に作っているので、ちょっと散漫な印象が残った感じです。あと、キャストも何か違和感が拭えなかったな。兄貴の長門裕之(落語の師匠・橋鶴役)、娘の真由子(橋七の嫁・美紀役)を使ってるあたりはまぁいいとして、主役の橋太が中井貴一ってねぇ。あと、橋鶴の恋のライバルだった鉄工所の元社長がマチャアキってのもねぇ。じゃあ誰ならいいんだ、といわれるといまパッと思い浮かばないけど、少なくともあの2人ではない、とは思う。ついでにいえば、橋太の嫁で、臨終間際の橋鶴にとんでもないものを見せる羽目になってしまう茂子も木村佳乃って感じじゃないし。あ、どうでもいいけどプリンプリンのちっちゃい方・田中章(橋七役)が出てたのは驚いた。これは別に違和感はなかったな、意外ではあったけど。
ってけなしてばっかじゃナニなので見どころをね。橋鶴の通夜の席で、落語『らくだ』よろしく、遺体にカンカン踊りをさせる場面と、橋鶴の妻・志津子(富司純子)の通夜の席で、橋太と元社長が春歌の歌合戦をするシーンは面白かった。特に後者はすごいですよ。あれだけ朗々とちんぽだおそそだおめこだ連呼してれば、そりゃR-15にもなるよな。別段、それ以外でハードにエッチなシーンは出てこないのでそれが理由だとしか考えられないもんな。どうでもいいが、原作を読んだってことを割り引いても、作品中に出てきた春歌のほとんどを素で知っていた自分は、絶対に間違った育ち方をしたとしか思えない。せっかくなんで一つ紹介。かなり露骨な下ネタなので、お嫌いな方は読み飛ばし推奨。

♪はあ〜〜 ちんぽちんぽと威張るなちんぽ ちんぽ おめこの爪楊枝

ね? ひどいでしょ? こんなんが山と出てくるのよ。志津子がもともと今里新地の芸者で、それに入れあげて通った元社長が個人を偲んで三味線で歌い、それを橋太が受けて立つ、というシーンだもんだから仕方ねぇや。
ところでこの春歌合戦の直後に登場する、作品の中で重要な意味を持つあの都々逸は、もう少し丁寧な撮り方というか処理をしてもよかったのではないかなぁ。原作にはないエピソードを盛り込んで伏線を張っていたけど、ちょっと伏線が簡単すぎたような気もするし、そもそも張る必要があったのかどうかも疑問。
ということでちょっと辛口な評価になってしまいました。原作が悪いのでもキャストや監督が悪いのでもなく、それぞれが若干不幸な出会い方をしてしまった、と思いたい。「俺たち、もっと違う場所で、違う形で出会ってれば、もっと幸せになれたのかな」みたいな。わかんないけどね。
ところでこの作品は落語家の話なので、作品中にも落語界や落語そのもののエピソードが登場するのだけれど、エンドロールの「落語指導」のクレジットに、桂吉朝の名前を見つけた。中島らもと親交が深く、上方落語屈指の実力派といわれながら、昨秋、50歳という若さで早すぎる死を遂げた落語家だ。まるで、中島らもの後を追うようにして。ある意味で、「遺作」ということになるだろう。ちらほらと席を立つ人が出始めた、まだ客電も点かない劇場の座席で、私は改めて冥福を祈った。
ちなみに今回、これを書くために原作を読み返してみたら、こんな一文を発見した。師匠の後を追うように亡くなってしまう、橋鶴の一番弟子・橋次(笹野高史)の死因についてのくだり*3だ。

飲み屋の雑居ビルの三階から階段落ちになって、打ちどころが悪くて、脳内出血で死んでしまったのだ。

ただの偶然、だとは思えない。




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*1:『Lie Lie Lie』のタイトルで映画化。豊川悦司鈴木保奈美主演。私は未見。大コケしたんじゃなかったっけ?

*2:中島らもはエッセイなどで書いたネタやエピソードを、別のエッセイや小説などに転用することがある。「前も読んだぞ。ふざけんな!」と憤るのではなく「ああ、アル中でラリ中だから仕方ないな」とあたたかく見守るか、元ネタがどの作品にあるかを思い出したりして楽しむのが正しいファンの態度である。

*3:映画での死因は原作とは異なっている。当然だろう。