スキップカウズ『マニュファクチュア』

本日発売の、スキップカウズ3年ぶりのフルアルバム『マニュファクチュア』。マニュファクチュア


もうその名の通り、手作り感満載でお届けする一枚です。きっとスキップカウズは、彼らのテーマである「不器用で、情けなくて、切ない男」をとことんまで描き尽くし、歌い尽くしていくんだろうな。そんな決意のようなものさえ感じられる作品に仕上がってます。基本的に、人にあまり音楽とか映画とかを強く勧めない私ですが、これはヤバいですよ。そういう、「不器用で、情けなくて、切ない男」的な世界がお好きな方には絶対に聴いて損はないかと。必聴の一枚であります。大人になったからって、いくつになったからって、意外といろんなことがうまくできるようになるわけでもなくて*1。かっこ悪い自分を見つめて歯噛みするんだけど、結局、自分は自分以外の(自分以上の)やつにはなれないってことも知ってるから、多少、損な役回りを演じながら、まっすぐに素朴に自分らしく生きていく。そんな男の姿が詰まったアルバムです。


1.愚か者の馬鹿
もういきなり直球勝負。このアルバムを象徴するようなナンバーで幕開けです。「女々しい」って言葉は男のためにあるわけですよ。女と別れた男が、自分でそのことを納得も理解もできずにいつまでも引きずってしまう、みたいな曲。「愚か者の馬鹿」ってフレーズの執拗なリフレインは圧巻。

自分で自分が解らない 出した答えが忍びない
一体何がしたいのか 馬鹿! 馬鹿?

2.近くて遠い
2月リリースの先行シングル。詳しくはこちらもご参照。http://d.hatena.ne.jp/Chatterton/20060221。海辺を最後のデートで散歩する情景は、俵万智の『八月の朝』(第32回角川短歌賞受賞)を髣髴とさせる。俵万智が卵サンドで詠む*2情景を、缶ビールで詞にするのがイマヤスらしい。

ぬるくなった缶ビール 急いで飲み干して
無理に君ははしゃいで 砂浜を蹴った
そうさ埋らない隙間 ノドにつかえてる言葉

3.1グラム
デビュー当時の1stマキシシングル『そんなヤツ』を思わせるような、悲しく不幸な男を歌っている。この詞の不幸感は特にすごい。身を切られるような切なさですよ。雨の中、ぼろぼろの箱の中でびしょ濡れになった、捨て犬のような男の歌。

余裕あるヤツは分けてくれないか? その見え隠れする幸せってヤツを
我慢出来るなら分けてくれないか? あの噂に聞いている幸せてヤツを
ほんの1グラムだけ ほんの1グラムだけ

4.さよならがノドにつかえて言えない日
『近くて遠い』と同じモチーフで書かれたため、『近くて遠い』とほぼ同時期にできた曲。すなわち「男女の別れ際の微妙な空気感」がテーマだが、こちらは、男から別れをなかなか切り出せずにいる、という目線。スキカウは詞先なので、同じテーマの詞に異なった曲がつくことがよくあるのだが、それを同じアルバムの中に入れるっていう試みは面白い。

優しい嘘は沢山 沢山あるのに
悲しい嘘だけが ここに残ってる

5.カンペキ
昨年9月リリースの先行シングル『スルメ男』のC/W。いつもカンペキで、隙もドジなところもなかなか見せてくれない恋人に、もっと頼りなくて、かっこ悪いところを見せて、と歌う曲。男女問わず、確かに恋人のそういう姿も見ないと(見せ合わないと)距離は縮まらないような気がするものだ(よね?)。そんな取るに足らないような着眼点を大切にしているのがスキカウの魅力だったりする。

あの娘の幸せそうなその笑顔は なぜだかボクを不安にさせる
あの娘がたまに見せる弱気な顔は なぜだかボクを勇気づけてる

6.愛の有無
「愛とは何か?」というドベタでド直球な疑問を、あえて即物的で散文的な二項対立でくくってみせる詞に、ニヤリとさせられるような言葉遊びを散りばめた、ブルージーなナンバー。言葉を大事にし、考え抜いて詞を書くイマヤスらしさが横溢してます。個人的に特に好きで、「うまい」と思ったフレーズはこれ。

あぁ 愛の有無は なぁ 財布の重さで
そう すぐに舌を出す あら したたかねぇ
あぁ 愛の有無は なぁ チェンジか瞬時で
ほら すぐに服を着る 逃げられねぇ

7.スルメ男
前述の先行シングル。珍しく、あまり捻らずストレートにメッセージを込めた詞になっている。「記録より記憶に残る」という、長嶋茂雄的フレーズがキーワード。字面のパっと見で、原田宗典の作品だとカン違いしがちなので注意。しかし今日び、「スルメ」を歌詞に登場させるバンドなんてなかなかないよ。まさに「昭和男、スルメ男」だ。

記録より記憶に残る キミのまぶたに焼きつける
噛めば噛むほど好きになる そんな男 スルメ男

8.夜の風
スキカウの「不器用なラブソング」の系譜には『君は恋人』(掛け値なしに名曲)、『最高の言葉』などがあるが、これもそれらに連なる作品。2人で安っぽいアイスを食べたり、こたつでだらだらとTVを見たり、といったような日常の何気ない風景の中に、自分の恋人のよさを発見する、というほのぼの系の曲。

何でも歌にする気でいたけど 何でも言葉にしようとしたけど
思いつかなくて申し訳ない

9.バタアシ
『近くて遠い』のC/Wをアルバムヴァージョンのアレンジで収録。ローテク・ローバジェットバンドのスキカウが、ピアニカと並んで好んで使う楽器がカズーだが、『バタアシ』にもそれがイントロに印象的に使われている。恋をしているときの「いても立ってもいられない感」をバタアシに喩えて歌った、メロコアっぽい一曲。

あの娘抱きしめて 今日も明日も バタアシで
ゴールもない中を ただひたすら バタアシで
あの娘眩しくて 薄目開けて バタアシで
恋の海の中を またいつもの バタアシで

10.砂時計
ベースのユーヤン作曲。これは白眉です。砂時計のあのくびれた形を女性の体にたとえるところまではありがちかもしれないが、恋人との関係が終わってしまうのを砂時計をひっくり返すことになぞらえる発想はもうイマヤスの本領発揮。それまでの思い出や時間が、取り戻せない流れの中で零れ落ちていく感覚は確かに「砂時計」だ。これは本当もうぜひ聴いて、って感じの一曲。これでしめるなんて心憎い。

別れの言葉を口にして あの娘は逆さまになった
溜め込んでいた愛は 下に流れて行く
まるで砂時計のよう


5月7日からは、千葉LOOKを皮切りにレコ発ツアー「二日目のカレー2006」(相変わらずスキカウのツアータイトルはわけがわからないw)が始まるので要チェキ。5月14日は渋谷O-Crest、5月28日は大阪シャングリラでやるので、お近くの方はぜひ。スキカウマジックを体験するのココロ!




日程的に14日、行けるか微妙。チケだけ取っとこうかな。人気blogランキング

*1:このへんの事情は、いつもTwinTowerさんと話していると話題にのぼる。

*2:砂浜のランチついに手つかずの卵サンドが気になっている