旅にしあれば

6年前、アムステルダムに行った(飛行機のトランジットだったのだが、まぁ6時間ばかり市内をぶらついたので)。
アンネ・フランクの隠れ家を訪れたあと、レンブラントの『夜警』が見たくて、私は国立美術館を探していた。地図を見ていたが結構わかりにくく、それでもおそらくこれだとおぼしきトラム(路面電車)に乗り込んだ。
運転手に「国立美術館へ行きたいのだが…」と、地図を見せながら片言のオランダ語で話しかけてみたところ、「この路線はそこへは行かないな」と彼は言った。なんだ、違うのか。そう思って降りようとした私を制し、座席に座れ、と運転手は言う。いや、この路線は美術館に行かないんだろう? と言ったのだが、いいからとにかく座れ、と言う。狐につままれたような気分で、言われたとおり座席に座っていると、トラムは動き出した。そして、しばらくすると停留所でもなんでもないところで停まった。
運転手は私に「この交差点を渡って、左に曲がったら美術館だ」と言った。結局彼は、違う路線にも関わらず、私を近くまで送ってくれたのだ。
礼を言ってバスの運賃を払おうとしたら、彼は「いいよ。早く行きな」と言って受け取ろうとせず、私を降ろした。
もしかしたら、そのときの私が髭ぼうぼうで、いかにも金のなさそうな貧乏旅行者風情だったから哀れんでくれたのかもしれないが(もちろん、トラムの運賃を支払う金ぐらいはあったけど)、海外旅行先で、思わぬやさしさに触れられたさわやかな記憶として、この件は私の中に今も残っている。
だから私は、オランダ人のことをケチだとは思っていない。




彼も私を見たら、日本人が勤勉だとは思わなかっただろう。人気blogランキング