謎のメニュー
またぞろ、私が高校生の頃のお話。もう高校時代の私なんていったら、食欲と性欲と睡眠欲の三大欲求だけで生きてるようなものでしたよ。まぁ二番目のそれについてはもっぱら自足でしたけど。そんなムダなカミングアウトはいりませんかそうですか。
だいたい基本的には学校行って寝て、昼休みにむっくり起きてガツガツ食って放課後までまた寝て、家に帰ったら食事してダラダラ夜更かししてまた寝て、というライフスタイルです。うわ、ニートだ。昼間、行く場所があるってだけのニートだ。そんなわけでよく世話になった学校の施設といったら図書館と学食に尽きる。ことに学食はもう本当に毎日行っていた。単に母親が私に弁当を作るのを面倒くさがっただけの話なのだけれど。
学食といってもこざっぱりとしてこぎれいで、カフェテリア方式とかの明るいそれを想像してはいけない。全身これ胃袋の、欠食児童みたいな男子高校生相手だから繁盛してるような小汚い店だった。もちろん味なんて期待してはいけない。とりあえずちゃんと味はついてますよ、ってだけの代物。微妙な味わいや素材のよさなんてものは薬にしたくもない。メニューの種類や盛り付けの量自体もそうびっくりするほどあるわけではなく、場合によっちゃ体育会の生徒だと一品では足りないかも、ぐらいなのだが、とにかくもう油だ、油。アブラ過多ブラ。「お前らはとりあえず揚げときゃ気が済むんだろ」的なコンセプトでガシガシ来る揚げ物・炒め物メニューの波状攻撃。ギョーザといったら揚げギョーザ*1、前衛メニュー・メンチ丼、炒飯には唐揚げが乗ってくるし、天丼（天つゆで軽く煮たちっぽけなかき揚げだが）に至ってはデフォルトでマヨネーズ（！）がついてくる。本当だ。今はどうか知らないけど。ウソだと思うなら私の同級生のフジタに聞いてみたまえ。
で、そんな低タンパク高カロリーな学食を私も愛用していたわけなのだが、私が食べるメニューはなぜかいつも決まっていた。メニューの数自体は30種類足らずあったのではないかと思うが、私が３年間で食べたものはその三分の一に満たない。ことに気に入っていたのがカツ煮ライスだ。当時で450円。字面から想像できる通り、カツ丼の具であるところの卵でとじたトンカツと、皿に盛ったライスの定食である。つまり、カツ丼をばらしたものだ。カツ丼とカツ煮ライスはまったく同じ値段（もちろん量も同じ）なのだが、なぜか後者を食べる生徒の方が圧倒的に多かった。不思議な話である*2。
そしてもう一つ、お気に入りだったものがある。やはりオリジナルメニューなのだが、ごく普通のメンチカツに、スパゲティにかけるようなミートソースがかかったものだ*3。これに唐揚げが２つばかりつき、つけあわせに繊切りキャベツと申し訳程度のナポリタン*4がついてきた。もう古い記憶なのでおぼろげだけれど、これも450円ぐらいではなかったかなぁ、と思う。
そんな懐かしい、私にとっての高校時代の思い出のメニュー。その名はそう、「メキシカンランチ」。
･･････メキシカン？ わからない。在学中から不可解だったし未だにわからないのだが、なんで「ミートソースをかけたメンチカツ」が「メキシカン」なのだ？ どこらへんがメキシカン？ メンチ？ あれって「日本の洋食」っぽくない？ ミートソース？ いやどう考えてもイタリアだ。キャベツ？ 英語では侮蔑的にドイツ人を指すんだって。じゃナポリタン？ だからイタリアだって。いや、あれはイタリアですらないって。まともに考えたら、このメニューの構成品目で「メキシカン」的なものを探すのはムリだ。八宝菜をかけた丼メシを中華丼と呼ぶ以上に強引である。もしかしたら使われてる米がメキシコ米（そんなものがあるかどうか知らないが）だったのかもしれないけど。
ちなみに３年前にメキシコに行ったが、現地ではついぞ「メキシカンランチ」のようなメニューには出会うことはなかった。いや、メキシコ人どころか世界中の誰に聞いても、あれが「メキシカンランチ」と呼ばれている理由はきっとわからないだろう。
でも、それならそれでいい。メニューの由来が謎のままのほうが、まだ私の青春時代がどこかに手付かずで残っているような気がして、ちょっと愉しいからだ。
