五月の風をゼリーにして持ってきてください

病床でそう言い遺し、早世した詩人がいた。
五月の風のゼリーがあるとしたら、それはどんなものなのか。さわやかな五月の薫風を、ゼラチンで固め、スプーンでひと匙すくうとき、それはどんな香りを放ち、口に含んだとき、どんな味を広げるものなのか。
わからない。想像は、及ぶようで及ばない。すべては、詩人がその今際のきわに振り絞ったことばのイマージュの中にしかない。
今年の五月も半ばを過ぎ、あと数日となった。二十代として迎える、私の最後の五月が。
私も、できることなら五月の風をゼリーにして、持ってきてほしい。その味を、香りを、舌触りを、できることなら永遠に記憶し続けていたい。
もうこの際、ウィダーinゼリーでもいいから。コンビニとかに売ってないかな、ウィダーinゼリー五月イン。ビタミンインとかプロテインインみたいに。五月の風を、口に咥えてじゅるじゅるじゅるじゅる〜。それじゃダメか。五月の風は、やっぱり「10秒チャージ、2時間キープ」するものじゃないか。まぁ立原道造は「重病チャージ」だったんだけど。
五月の風をゼリーにして持ってきてください。
病床でそう言い遺し、早世した詩人がいた。その詩人が没した歳を、私はとうに抜いた。




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