うっかりスエット

今となっては自分でも信じられないが、3年と少し前まで、私は会社員だった。そう、毎日ちゃんちゃんと、二日酔いでも寝ぼけていても、タイムレコーダー ガチャンと押して(ウソ、私が勤めていた会社はいまどき「出勤簿」だった)9時には出社して仕事をしていたのである。月〜金でである。いやぁ、えらかったなぁ、私。
そして、言うまでもないが毎日ちゃんと、スーツにネクタイで仕事をしていたのである。これがもう、(特に夏場は)無類の暑がりで汗っかきの私には、本当にイヤだった。ちゃんと着たらすぐ洗濯をしていたが、それでもあの頃着ていたワイシャツは、ほとんど汗じみになって着られなくなってしまっているくらいだ。その反動で、いまはよっぽどのことがないとスーツにネクタイは着ない。着てやらない。あの時代の仇を討つかのように。
あれは何年前だろうか。入社して最初の部署にいた頃だったから、5年くらい前だろう。真夏の炎天下、珍しく外出する用事があった(当時の私は内勤の部署にいたので、基本的に外出する用事はほとんどなかった)。クソ暑い中だが、人と会う予定だったので上着も着ていかなくてはならず、おまけに用務先は交通の便がさほどよくなく、駅から15分ほど歩かねばならないところだった。もう出かける前からうんざりだった。
午後、気が進まないながらも会社を飛び出し、フガフガ言いながら先方へ。筆舌に尽くしがたいほどの暑さの中、普通の人の何倍かの汗をかきかき、用務を終えて夕方には社に戻った。暑さでボーっとしていたのか、脱ぎゃあいいのに着ていた上着をわざわざ身に着けたまま、帰途を辿ったのである。
そして、その日の私のワイシャツの色はブルーだった。
部署へほうほうの体で辿り着き、上着を脱いでワイシャツ姿になった私を見て、課長は言った。
「あれ、夕立?」
もう竹内栖鳳か一斗茶太かってくらい夕立でしたよ、課長。「私にしか見えない」夕立でしたけどね。
夏のクソ暑い中、街で(職種柄、クールビズとは無縁そうな)スーツにネクタイ姿のリーマンを見ると、ちょっとの優越感と心からの同情を覚える一斗でありました。





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