あの事件で思い出した小説

中島敦山月記』。
李陵・山月記 (新潮文庫)
若くして科挙に合格したエリートでありながら、官吏として、そして詩人としてと、度重なる挫折を味わった李徴。狷介で峻峭な性格の彼は、孤独の中で傷ついた自尊心を抱え、また生活の逼迫という焦燥に苛まれ、ある日ついに虎になってしまう。自分の中の「虎」に乗っ取られてしまう。
白昼、秋葉原の路上で凶行におよんだ彼は、自分の中のどんな「虎」に乗っ取られ、突き動かされてしまったのだろう。その闇を想像したとき、私の中で、彼と李徴がふと重なる。

人間は誰でも猛獣使いであり、その猛獣にあたるのが、各人の性情だという。おれの場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。これがおれを損ない、妻子を苦しめ、友人を傷つけ、果ては、おれの外形をかくのごとく、内心にふさわしいものに変えてしまったのだ。



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