やさしいことば、やさしいひと
ちょっと前に読んだ、竹内政明『名文どろぼう』からの孫引き。
読売新聞の一面コラム「編集手帳」の第6代目執筆者である著書が、古今の名文を多数紹介している。「人の褌で相撲」本だが、軽く、面白く読めた。
その中から、山口瞳『木槿の花』の、武者小路実篤を評した名文を。
武者小路実篤は、七十年間にわたって、毎日のように書を書き絵を描いたが、ついに書も絵も上達することがなかった。『新潮日本文学アルバム』に掲載されている昭和二十五年に描いたヌードなどは悲惨なくらいに下手だ。(中略)
しかし、私にとって「勉強すれば偉くなる」とか「勉強すれば上達する」ということよりも「いくら勉強しても上手にならない人もいる」ということのほうが、遥かに勇気を与えてくれる。
なんだか、やさしいことばだなぁと思う。いま、ちょっと大っぴらにそういうことばを私自身が口にすることのできにくい環境にいるだけに、余計にそう思う。