ハウスの謎

先日、近所のスーパーマーケットに行った。目当てのもの以外に何かいいものはないかとうろうろしていると、調味料コーナーにカレーのルウがいくつか置いてあった。「バーモントカレー」や「ジャワカレー」などのおなじみなものに混じって、「印度カレー」という私にはあまり見慣れないものがあった。パッケージはこんなのだ。

お気づきだろうか、「香りのミクススパイスつき」と書かれていることに。
「ミクス」なのだ。「ミックス」ではないのだ。この「印度カレー」はハウス食品の製品である。このとき、私は自分の中で、二十数年間ほったらかしにしておいた疑問が再びよみがえってくるのを感じた。
「ハウスの製品て、ミックスのことを『ミクス』て書くの多くね?
という疑問だ。
私が初めてこの疑問にぶち当たったのは子どもの頃だ。当時から私はプリンが大好きだったが、家が貧しかったのか、私が遠慮っぽい子だったからか、あるいはその両方か、なかなか私は自分からプリンを親にねだることができなかった。そんな子どもの頃の私のハートをガッチリとキャッチしたのが、ご家庭でプリンが作れるというハウスのこれだ。

「プリンミクスである。どう考えたって、混ぜ合わせて作るもののくせに、「プリンミックス」ではなくて「ミクス」なのである(なお、ついでに言えば、プリンではなくてゼリーができる商品の名前は「ゼリエース」であって、「ゼリーエース」ではないのである)。
また、ミクスなのは「印度カレー」だけではない。

「シチューミクスである。なんなのだ。もうこれには、ハウスのある種の「信念」、いや「執念」のようなものすら感じられるではないか。
なぜ私が、ここまで「ミクス」と「ミックス」の異同にこだわるのか。それは、最初期の大江健三郎が、(男女のものを問わず)「性器」という意味で「セクス」という言葉(「セックス」ではなく)を作中で執拗に使っていたのを想起させられてイラつくから、だろうか。よくわからない。
そんな疑問を解決すべく、私はハウスのお客様相談センターにコールした。すると、
「『プリンミクス』や『シチューミクス』などが発売された1960年代後半当時、『mix』の発音は『ミクス』とされることが多く、当時は『ミックス』よりも『ミクス』のほうが自然だったからということらしい。ふぅ〜ん(担当のカサハラさん、ありがとうございました)。ということは、大江が「セックス」を「セクス」と書いていたのもそのセンか? というわけで、1950〜1960年代の文献から「ミクス」と「セクス」の他の使用例を今後探してみようと思う。ハウスの謎が、思わぬところに着地したものだ。



アベノミクス・・・は関係ないか。人気blogランキング