『辞書を編む』

年末年始に読んだ本の一つ。
辞書を編む (光文社新書)
著者は、「三国」こと『三省堂国語辞典』の編纂者、飯間浩明。最近、某TV番組の失礼な取材の実態をTwitterで明らかにしたことでも話題になった方である*1
書名からわかるように、三浦しをんの『舟を編む
舟を編む
の映画公開に合わせて刊行された本なのだが、映画の中でも描かれた辞書編纂という仕事、および辞書編纂者という人々について、これまでほとんど当たらなかったスポットを当てた内容。『舟を編む』作中で編まれていた国語辞典「大渡海」の監修者である国語学者・松本(映画では加藤剛が演じていた)が行なっていたような、用例採集について書かれた部分は興味深かった。書籍、新聞、雑誌、TVはもちろん、街中の看板や市井の人々の会話、Twitterにまでアンテナを張り、メモを撮ったり撮影をして、ワード・ハンティングをしていく*2。大変面白そうで、自分でもちょっとやってみたい気はするが、間違いなく不審者と間違われそうだし、何より、それを「毎日」「何年も」「仕事として」続けることはちょっとできそうにない。ちなみに、著書が辞書編纂に興味を持つきっかけとなった、「三国」の初代編集主幹である国語学者見坊豪紀*3は50年間で145万語(!)を採集した。その145万枚の用例採集カードは、三省堂の倉庫に現在も保管されている由。人間業ではない数だ。
筆者も含めた辞書編纂者たちが、編集会議終わりで居酒屋に行き、店員が「(料理を)“全然”食べちゃってください」と言ったときに、「べつに心配する必要がない、問題ない」という意味での「全然」の新しい用例*4に生で出会って、一同が「おぉーっ!!」と盛り上がるくだりがすごく面白かった。我々が普段使っている辞書は、こうした頼もしくも愛すべき「ことばオタク」達によって編まれているのだな、ということがわかる好著。



見坊豪紀の『ことばの海をゆく』も買った。こちらも面白い。人気blogランキング

*1:http://news.livedoor.com/article/detail/9427414/

*2:これは「三国」が、「今、そこにある日本語」を載せる「実例主義」の方針を採用していることも大きい。

*3:明言はされていないが、『舟を編む』の松本のモデルであろうと考えられる。

*4:「今日、家に行ってもいい?」「ああ、大丈夫。『全然』来てよ」といった具合。