「肉のまえかわ」探訪

昨日は久々に知人が仕事で状況してきたので新橋で飲むことになり、その前に所用があって大井町に寄ったが、せっかくなので立ち飲み屋で一杯引っかけていこうと思い(これから飲み会なのに?)、界隈では名の知れた「肉のまえかわ」へ行ってみたよ、の巻。
大井町は思い出の町。それは私がまだ小学校に入る前、母親が当時住んでいた五反田から大井町にパートに出ており、私はその会社の託児室に預けられていたりなんかしていた町。そんな年端もいかないころにはもちろん知る由もなかったが、しかし大井町は酒飲みの町でもあったりする。すずらん通りに東小路、平和小路は立ち飲みスポットも多く、昼日中からでも気軽に飲めるゴキゲンなエリア。そんなわけで今回は、東大井五丁目に出没です、と『アド街ック天国』風にすずらん通りを歩いてみる。時間はまだ夕刻の6時を回ったばかり。駅から3分もかからず、お目当ての「肉のまえかわ」に辿り着いた。商店街の中でもひと際目立つ人だかりの店なので、すぐわかる。
いやぁ、なんなのこの賑わい。まだ6時だよ6時。店内も店の外も、常連と思しき客で溢れている。賑やかにざわめく店内では、なぜか大声で確変の話をしているおっさんがいた。ここに来るのは初めてなのだが、なかなかに入りづらい雰囲気である。しかし「会社も辞めりゃ職もなくなって、俺にゃもう失うものなんてねぇんだよ」的なハングリー精神とガッツを懐にしのばせ、それでも物腰柔らかく「はい、すいませ〜ん、入れてくださ〜い」なんて呟きながら笑顔で入店だ。
ここは「肉のまえかわ」というだけあって(多分)肉屋である。だから店内カウンターのショーケースには(多分)新鮮な精肉や揚げたてのコロッケにトンカツ、ポテトサラダなどが並んでいる。しかし、「今日の晩ご飯はポークソテーにでもしようかしら」などといって肉を買いに来る主婦は(多分)いない。店内には所狭しと簡易テーブル(粗大ゴミの山から拾ってきたっぽさがイカす)が並び、店の外の軒下にもへばりつくように櫛比して並ぶ。そして店頭では焼き鳥・もつ焼きを焼いている。客は、店内の業務用冷蔵庫に入れてある缶ビールを、あるいはカウンターで注文した酎ハイや日本酒を、焼きたての焼き鳥やショーケースの中の揚げ物、肉をアテに飲むのである。オールスタンディングだ。キャッシュオンデリバリーだ。ロンドンのパブみたいなもんだ。ロンドン行ったことないからよくわかんないけど。
というわけで、私も混雑した店内をもそもそと通り抜け、冷蔵庫から北海道生搾りの500ml(250円)をひっつかみ、カウンターで串かつ(110円)を注文。陰気そうな顔した店員のおっちゃんが皿に乗せて、たらーっとソースをかけ回して出してくれる。中年サラリーマン2人組が陣取る店外のテーブルの隅っこに入れてもらい、缶のタブを捻る。はい、一人でカンパーイ。ゴキュゴキュゴキュ〜。ゲフ(←汚い)。うん、発泡酒だね。よく冷えててうまいけど。で串かつを齧る。先日、新世界で食い倒したそれではなく、肉・玉ねぎ・肉のアレだ。久々に食べたが旨い。甘い玉ねぎと、一口大のカツがビール系のアテにぴったりだね。確か昔、東海林さだおもビールのつまみのベストに挙げていたような気がする。もぐもぐ。おかしなもんで、ビアホールで出るものより、肉屋で揚げたものを買ってくるほうが美味しい気がする。またひと口発泡酒を呷り、今度は焼き鳥を頼んでみるべく店頭に移動だ。テキトーに砂肝と豚ばらとなんこつ(各100円)を注文し、焼き上がりを待つ。すると、隣にはやはり常連と思しきおっさんが焼き鳥で焼酎を飲んでいる。「いやぁ、焼酎はうまいよねぇ、兄ちゃん」と話しかけてきた。焼けるまでヒマなので付き合ってみる。
「生で飲んでるの?」
「ううん。お湯割りなんだけど、ここのねえちゃんは俺にはおまけしてくれるから濃いんだよ」
「おいしそうだね」
「ああ、これで200円だもん。安いよなぁ。こんなコップのお湯割りなんか、ここらへんの他の店行ってみなよ」
「高いんだ?」
「ああ、300円はするよ」。大差ねえじゃねぇか(笑)。どっちにしろ安い。いい街だ。
するとおっさんが、顔見知りらしい別のおっさんが通りを歩いているのを見つけたらしく、「おーい、ボス!」と声をかけている。うわ、この街のボスてw。どんな人だろう、見てぇと思ったが後姿がちらっと見えただけで、狭い路地に消えていった。
「いまのは、流しのボスだよ。もう珍しくなったけどな」。へぇ、流しがいるのか。さすがに私は流しが来るような店で飲んで、曲を頼んだことなんてない。でも、ここではそれができるのだ。それが大井町。いいなぁ、「昭和」で。 
他にもこのおっさんが65歳になる(そうは見えないほど若かったが)今でも現役でセメントをセメントでこね回していること、肉体労働の疲れをここで癒していることなどの話を聞いているうちに焼き鳥ができたので、300円を払う。また元の陣地に戻ろうとしたら、おっさんが「おいおい兄ちゃん、唐辛子忘れてるよ」と渡してくれた。礼を言ってパラパラと振り掛ける。おっさんよ、さらば。縁があったらまた会おう。
焼き鳥はまぁ普通ですな。つくね(80円)とかもあったので次回は試してみよう。発泡酒が空いたので今度はコップ酒(220円)を飲む。冷やかと思ったらぬる燗だった。ついでにメンチカツ(115円)も頼んじゃえ。メンチは四つに切られ、例によってソースかけ回しで、爪楊枝代わりの串が1本ついている。おされフレンチ風に言えば「揚げたてメンチの中濃ソース 季節の竹串を添えて」って感じだ。違うか。コップ酒をぐびぐびやる。ああ、もうほろ酔いだ。幸せだ。こういうのを真の「せんべろ」というのだろう。素敵である。これからまた飲み会があるっていうのに。そうだ、まだこれから飲むんだよ。てなわけでそろそろ腰を上げようと(って立ち飲みだからハナっから腰は上がってるんだけど)したが、カウンターにある「生ささみ」がどうにも気になる。あれを食べてから帰ることにしよう。ここは肉屋なだけあって、新鮮なレバー(キライだから食べないけど)やささみが、生で味わえる。さすがに生ささみは高くて、250円もした。って安っ! そりゃこの店の他のものに比べれば高いが、焼き鳥屋でとりわさかなんかを頼んだ日には絶対この値段では食べられない。ぶつ切りにして皿にぶち込み、醤油をかけてくれるが、薬味はわさびと生姜、にんにくから選べるという。えー、どうしよう。この後、飲み会で人と会うからな。まして女性とだしな。うーん。「じゃ、にんにくで」。当然ですよ、そんなもん。あれ、箸は? と思ったらさっきメンチに添えてあった串が2本ついてきた。250円なのだ、文句は言うまい。箸にしては細すぎる竹串で、危なっかしく食う。むしゃむしゃ。
うわ、生ささみ、うっめー! やわらけぇー! 肉の甘みと、もっちりした歯ごたえが何ともいえませぬ。絶品だ。これであの値段だなんて、なんか後ろめたくなってしまう。いや、本当に後ろめたいのはこれより旨くないくせにこれの数倍の値段を取る市井の焼き鳥屋か。勢いで淡麗グリーンラベル350ml(200円)も飲んじゃおう。これから飲み会だってのにいいのかな? イインダヨ、グリーンダヨ!(あのCM大好き) 糖質70%オーッフの缶を飲み干して、私は派手にゲーッフ(←だから汚いっての)。そんなわけでおあいそだ。1445円ナリ。素晴らしい。生ささみを欲張らなかったら完全に「せんべろ」ではないか。というわけで必ずまた来ることにする。今度はもっと早く来て、悠々と飲んでやろう。mykissmykissさんあたりと一緒に、まだまだ大井町を探訪してみたいものだ。




昔、大井町の自殺物件アパートをつかまされそうになった。人気blogランキング