今日の詩

山之口獏『鮪と鰯』

鮪の刺身を食いたくなったと
人間みたいなことを女房が言った
言われてみるとついぼくも人間めいて
鮪の刺身を夢みかけるのだが
死んでもよければ勝手に食えと
ぼくは腹だちまぎれに言ったのだ
女房はぷいと横にむいてしまったのだが
亭主も女房も互いに鮪なのであって
地球の上はみんな鮪なのだ

鮪は原爆を憎み
水爆にはまた脅かされて
腹立ちまぎれに現代を生きているのだ
ある日ぼくは食膳をのぞいて
ビキニの灰をかぶっていると言った
女房は箸を逆さに持ちかえると
焦げた鰯のその頭をこづいて
火鉢の灰だとつぶやいたのだ

【鑑賞】
ビキニの水爆実験に対する静かな怒りを、作者は人類を代表して、しかし淡々と、生活の一場面に託して語っている。それは告発であり、憤怒であり、祈りでもある。
しかし、単なる反戦詩にとどまらず、性行為の最中に受け身であるものに対する静かな怒りをも、作者は人類の代表として、しかし淡々と、生活の一場面に託して語ってもいる。それは告発であり、憤怒であり、チェンジでもある。





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